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「なるほど、これは放っておけませんね。おまけに警察沙汰にもできない。警察ってところは……僕の古巣なのですけれど、幽霊の存在を認めませんからね」
「私もそうでしたわ、この目で見るまでは!」
「ごもっとも」
トニヤは、鼻先に突きつけられた日傘を、やんわりと払いのけた。
「それで、おそらくは、と言われましたが」
「夫と前妻とは、二十年前に離婚していますの。前妻はそのまま実家に戻ったそうです。離婚当時の彼女は三十歳くらいだったそうです」
「三十かぁ、今の僕より、ちょっとだけお姉さんですね」
「現在の年齢でも五十歳くらい。大きな怪我か病気でもしない限り、死ぬような年齢ではありませんわ」
その通りですね、とトニヤはうなずいた。
「アニーからは、お屋敷に現れたのは若い女猫の幽霊、と聞いています。それで、奥様の前に現れた幽霊は、何歳くらいのでしたか?」
「私よりも、七つか八つほど年上のように見えました。ちょうど夫と離婚した頃の、前妻の年齢です。ただし相手がおぼろげなので、はっきりとはしませんけれど」
ふぅん、とトニヤは鼻を鳴らした。そして飲み干したコーヒーカップをシンクに転がすと、ロレダーノ伯爵夫人に向き直った。
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