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「幽霊は今でも現れますか?」
伯爵夫人はコクリとうなずいた。
「それでは、僕がお屋敷にお邪魔しても構いませんか? たとえば明日とか」
ロレダーノ伯爵夫人は、ばね仕掛けの人形のように小刻みなうなずきをすると、バッグからペンと小切手帳を取り出した。
「これで安心できますわ。代金はおいくらですの?」
「とりあえず、前金で三百ルシーほど、お願いできますか? 家賃がたまっているので。それと、この件が上手く片付いたら残金で三百ルシーほど。当面の生活費にしたいので」
ロレダーノ伯爵夫人は、慣れない手つきで三百ルシーの小切手を切った。トニヤは小切手をポケットにねじ込むと、数点のキャンバスをがらくたの山から引っ張り出して、伯爵夫人の前に並べた。
「この中で、どれかお好きな絵を選んでください。明日、お屋敷に持参します」
「絵を選ぶって、どういう事ですの?」
「あれれ。使用人の方々は、全員この幽霊騒動をご存知なのでしょうか?」
ロレダーノ伯爵夫人は、いいえ、と返答したが、その眼差しは訝しげで、トニヤの意図を汲み取れない様子だった。トニヤはもっともらしく姿勢を正すと、うやうやしい調子で説明を始めた。
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