4 フランス人形の名前はマリーベル

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「明日、僕がお屋敷に手ぶらで参上したとしましょう。すると使用人の方々はどのように思われるでしょうか? きっとあれこれと想像を逞しくして怪しむに違いない。でも、幸いにして僕は画家です。奥様は今日僕のアトリエへ来て、三百ルシーの絵画を買われた。そして翌日、画家は搬入のために持参した。そういう事にできますよね」  トニヤが青と緑のまだら模様になった目でウィンクすると、ロレダーノ伯爵夫人は合点してニッコリと微笑んだ。若々しくて可愛らしい笑顔だ。 「明日はお一人で来てくださいますの? 小切手を切ったので、執事のヴァレスだけには簡単な事情を話しておきますが」 「むやみにメイドさんたちを怖がらせる必要もありませんしね。ただ、幽霊の件だけはご内聞に。明日は、僕と相棒のマリーベルがお邪魔します」 「マリーベルさん? 女性の方ですか」 「僕の妹です。喋りませんし、邪魔にはなりませんよ」  トニヤはそう言うと、部屋の片隅を指し示した。その瞬間、ロレダーノ伯爵夫人は、ハッと息を呑んだ。なぜなら、トニヤが指し示した棚の上には一個のフランス人形が鎮座していて、伯爵夫人に向かって手を振っていたからだ。
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