5 トニヤ、自信作を「安っぽい」と言われる

2/10
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
 翌日、トニヤはロレダーノ邸裏門の鉄柵越しに、訪問の目的を告げた。  トニヤの小脇に抱えられているのは、昨日ロレダーノ伯爵夫人に選んでもらった裸婦像だ。もっとも、伯爵夫人はその絵を裸婦像とは認識しておらず、彼女の実家があるという漁師町の風景と思って選んだのだが。  対応に出てきた執事のヴァレスは、体毛にチラホラと白髪が交じった黒猫だった。ヴァレスは緑の瞳でトニヤを眺めまわすと、ニコリともせずに屋敷の裏手を指差した。 「奥様からお話は伺っております。洗濯室側の勝手口から回っていただけますかな」 「もちろんです。お庭を通過してもよろしいので?」  ヴァレスは、いかにも愛想の無いうなずきを返した。トニヤは窓越しに覗き見るメイドたちの、いたずらな視線を感じながら庭園を歩いた。  青々と美しく敷き詰められた芝生と、整然と手入れされた植栽群。さすがは伯爵家……と褒めたい庭だったが、庭園の奥手に新設された納骨堂が不気味な影を落としており、色鮮やかに咲き誇った花壇の花々を台無しにしていた。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!