5 トニヤ、自信作を「安っぽい」と言われる

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 キャンバスの包装を解きながら、理由はわかりませんが、とトニヤは答えた。  マリーベルはトニヤの妹が大切にしていた人形で、彼女が結婚した際も嫁ぎ先に持って行ったものだった。そしてあの忌まわしい事件の後、形見分けでトニヤが手元に引き取った夜から、マリーベルは動き出したのだった。 「顔がビスク陶器製であるせいか、マリーベルは喋ってくれませんからね。何がどうしてこうなったのかは、さっぱりです。どうでもいい問いかけには、身振りで返答してくれるのですけれど。どうも幽霊のルールに引っかかるみたいで、肝心な事には返事が無いのです」 「屋敷に現れる幽霊と同じですわ。問いかけても、何も答えてくれません。ただ私を手招きして、庭園へ連れ出そうとするだけです……。ああ、それそれ! 待ち望んでいましたのよ」  包装が完全に解かれ、キャンバスの全体が露わになると、ロレダーノ伯爵夫人は歓喜の声を上げた。 「私の故郷にある岬にそっくり。トニヤさんは王国北部に行かれた事が無いそうですけれど、いったいどのようにしてこの風景を?」 「まぁ、何となくインスピレーションで」  トニヤは、半分泣きそうな顔になって笑った。するとロレダーノ伯爵夫人は、まん丸で愛らしいターコイズブルーの瞳でトニヤを見つめた。
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