1 女猫のヒールは折れてしまった

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「もう一匹にも」  襲撃者たちのうち、リーダー格の男猫が指図した。すると一匹の襲撃者が破れた窓に歩み寄り、濡れた地面に転がった縞模様の男猫に狙いをつけた。襲撃者の口から呪文が漏れる。  突然、雨に煙る夜道に悲鳴が響いた。襲撃者が顔を上げると、助けを呼びながら走り去る労働者風の男猫と、腰を抜かした娼婦風の女猫が見えた。襲撃の現場を見られたのだ。襲撃者の銃口は、二匹を撃ち倒すべく持ち上げられた。 「やめておけ。撤退だ」  リーダー格の男猫が命令した。襲撃者たちは足早に部屋を出ると、表で待機していた蒸気自動車に乗り込み、雨の中へと消え去った。 「誰かぁ。助けて……。お巡りさーぁん」  娼婦風の女猫は、へたり込んだままの姿勢で、声も限りに叫んだ。彼女の顔は雨と涙でビッショリと濡れて、化粧が崩れかけている。女猫が何度目かの叫びを上げた時、彼女の前で転がっていた男猫がピクリと動いた。 「あ、あんたっ。大丈夫なの?」  女猫は、横たわった男猫に声をかけた。しかし返事は返らない。やはり死んでいるのだろうか。それでも、微かに腹部が動いているように見える。まだ息があるようだ。 「しっかりしな。すぐに助けを呼んであげる。生きるんだよ」  女猫はヨロヨロと立ち上がった。彼女の靴は、へたり込んだ拍子にヒールが折れている。女猫は何度もよろめきながら、助けを求めて雨の中を歩き始めた。
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