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「ねえトニヤ、ひとつアルバイトをやってみない?」
「アルバイトならば今でもやっています。今日だって、夕方から皿洗いですよ」
トニヤは床板を睨んだまま返答した。
「そうね。でもこれは、もっといいお金になるアルバイトよ。一度にまとめて稼げる仕事があるの。お金ができたら、一日に三度食事をして、今よりもたっぷり時間を使って、キャンバスに向かえるわ。そうしたら、もっと違うものが描けるかもしれないわよ」
「すてきですね。でも、そういう生活って豚みたいに太りそうだ。それは嫌だな」
「太るくらい問題ないじゃない。お腹が出たら、新しいズボンを買えば良いだけの事よ」
アニーはディープイエローの瞳を細めて、元教え子の、雄猫にしてはかなり細いウェストを見つめた。
「ねえトニヤ、あなたのウェストって、私の半分くらいしかないわ」
「ああ……。実は今日も、朝からコーヒーしか腹に入れてなくて……」
「何と言う事なの。あなたが絵描きで生きていくためには、差し当たってのお金が必要よ。このアルバイトは上流階級の方からのオファーなの。上手くすれば、良い買い手とも顔の繋がりができるわ。そうすれば、作品が売れるチャンスができる。それにもっと上手くすれば、サロンに紹介してもらって、パトロンを見つける事ができるかもよ」
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