2 トニヤ・ジョッセルは、いつでも腹ぺこである

5/6
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
「ねえトニヤ、ひとつアルバイトをやってみない?」 「アルバイトならば今でもやっています。今日だって、夕方から皿洗いですよ」    トニヤは床板を睨んだまま返答した。 「そうね。でもこれは、もっといいお金になるアルバイトよ。一度にまとめて稼げる仕事があるの。お金ができたら、一日に三度食事をして、今よりもたっぷり時間を使って、キャンバスに向かえるわ。そうしたら、もっと違うものが描けるかもしれないわよ」 「すてきですね。でも、そういう生活って豚みたいに太りそうだ。それは嫌だな」 「太るくらい問題ないじゃない。お腹が出たら、新しいズボンを買えば良いだけの事よ」  アニーはディープイエローの瞳を細めて、元教え子の、雄猫にしてはかなり細いウェストを見つめた。 「ねえトニヤ、あなたのウェストって、私の半分くらいしかないわ」 「ああ……。実は今日も、朝からコーヒーしか腹に入れてなくて……」 「何と言う事なの。あなたが絵描きで生きていくためには、差し当たってのお金が必要よ。このアルバイトは上流階級の方からのオファーなの。上手くすれば、良い買い手とも顔の繋がりができるわ。そうすれば、作品が売れるチャンスができる。それにもっと上手くすれば、サロンに紹介してもらって、パトロンを見つける事ができるかもよ」
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!