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 空を見上げる。  描かれるのは混じりけの無い純粋な青さ。それが少しも欠けることなく、全天に広がる。  草の上で座り込んでいる僕らの背中を冷たい風が撫でた。  「うぅ、寒いねー」  11月半ばの空の下、制服姿の君がそう言って笑う。寒ささえも楽しむかのように。  「まあ、川原だしね、ここ。」  「そろそろコート着ようかなー」  君は白い足を擦る。弱く光っているようで少し現実味がない。  「12月になってからでいいんじゃない」  今は暑さと寒さが曖昧だ。  「そうだねー、一人だけコート着ていると周りから浮いてるみたい・・・ってもう手遅れかっ!」  君がケタケタと笑う。別に的はずれな言葉ではない。ただ、反応に困る。  「やめて、『反応に困る』みたいな顔しないでっ」  「僕の立場を考えてよ。何が悲しくて面白くもないジョークに笑わないといけないの」  「ひどっ、私の渾身のセリフをコケにしたな!」  「ブラジルに行って出直してきて」  「は?」  「あー、ごめん。何も考えずに言ったからスルーしといて」  「なるほど、ブラジルにいってカーニバルだね」  訳のわからない言葉を並べてまたケタケタと笑う。後ろで結ばれた君の髪が揺れて僕の背中にぶち当たった。  「いやー、私ってクラスだとぼっちだから君と話せるのが新鮮だよ」  遠くの空見て君が言う。  「去年君があんなことするから」  「それはわかってるよ。先生達が私を怒ることは正しいかった。まあ、後悔はないけどね」  その表情は満足げで、整った顔立ちが強調される。  「それに、君だって見ていただけだったでしょ?」  「君は恩知らずだね、僕の苦労も知らないで」  「冗談だよー、君の考え方は嫌いじゃないから」  正しいか誤りか、ではない。彼女の信念はそこを見つめない。  「今日はもう帰る?」僕が言う。もう暗い。  空の青さに、消えかかった陽だまりが溶けていく。その青の名前を僕は知らない。  「そうだね、行こっか」  二人立ち上がって向かい合う。  「じゃあ、また明日!」君が笑う。  「じゃあね」僕が答える。  君は僕に背中を向けて欠けたアスファルトの上を歩いてゆく。  太陽は僕の背中を照らしている。君の白さは青空を照らしている。  空の青さに純粋な白が混じり合った。それは僕の理想の色だ。  その色の名前を、僕は知らない。
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