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聖夜の意識が夜空から地上に戻ってきた時、誰かが立っているのに気が付いた。
公園の真ん中に設置された明かりがギリギリ届かない所。
そこに影法師は立っている。
聖夜は驚き、ブランコの鎖を握る手にも力が入った。
……二人の間に静かな時間が過ぎる。
動かない影法師を見詰めていたが、聖夜はふと力を抜いた。
(何でもない、のかな)
聖夜はブランコを微かに揺らしながら、また月に視線を戻す。
聖夜は突然の来訪者に警戒を解いたばかりか、マジマジと見てしまった自分を恥じた。
ここは公園。誰が来たって良い公の場所なのだから。
「……あなたは良い人?」
突然声がして、聖夜の意識はまた地上へと引き戻される。
影法師は公園の明かりへと踏み出していた。
黒髪に黒い服。
影から出てなお黒い女の子。
輝く髪。小さくて整った顔立ち。透き通る肌と華奢な体が儚さを感じさせる。
正に美少女だった。
「あなたは良い人ですか?」
目を奪われ、何も言えずに居た聖夜に女の子はもう一度聞いた。
聖夜は戸惑いながらも口を開く。
「普通です」
後にもっと気のきいた事を言えればと聖夜は後悔する事になる。
それでもこれが、聖夜と楓の出逢いだった。
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