第一章 出逢い

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 楓は足音をたてずに一歩、二歩と聖夜に近付く。  楓を見つめたまま、聖夜は息を飲んだ。 「お願いを……聞いてもらえませんか?」  楓の言葉はか細く、それでいて聖夜の反応を伺うようだった。  聖夜がまたしても言葉を喉に詰まらせる。  聖夜は自分でも人の『お願い』を断れない質なのは知っていた。  今も『ノー』と言うつもりは無い。  だが、お願いを『叶えられる』かどうかは別だ。  それをどう説明しようか、聖夜が思いを巡らせていると、楓は更に近付いてくる。 「何処か……人の居ないところはありませんか?」  聖夜はこの質問で初めて楓に不信感を抱いた。  何故ならこの夜の公園には聖夜と楓の二人しか居ない。  十分この公園も『人の居ない所』と言って良いはずだ。  この夜、何度目かの沈黙。  何処か遠くで物が割れる音と、怒鳴り声が聞こえてきた。  聖夜はチラリと音の聞こえた方へ視線を向ける。  聖夜自身には関係ない、四角い世界が並ぶばかり。  それでもそんな音が聞こえてくれば、嫌な気持ちを抱かずにはいられなかった。 「もし……人が近付かないようなところをご存じでしたら、教えてもらえませんか?」  楓は辺りを見回し、もう一度聖夜に聞いた。  少し怯えたような表情で。  そこで聖夜は楓が言いたい事を理解した。  確かに団地に囲まれたこの場所は、一人になるには良い場所とは言えない。  他人が、他人の人生がすぐそこに感じられてしまうからだ。  誰も居ない。誰も来ない場所。  聖夜には心当たりがあった。 「ついて来て」  そう言って聖夜は立ち上がると歩き始める。  楓も黙ってその後に続いた。
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