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「……そうか。お前、その間いつも留守番なのか。偉(えら)いな」
今日日、片親なんて珍しくもないが、だからといってこの子どもがないがしろにされていいという話ではない。
褒められていることは分かるのだろう、子どもはどこか気恥ずかしげに、「……凛です」と鼻を膨らませる。
「はいはい、凛ね」
ひとまず凛をソファに座らせ、隣に寄り添うようにアールが座った。嬉しそうにアールを撫でる凛の様子を見つめながら、学は小さく溜息を吐いた。軽率に家の中に入れてしまったが、面倒なことになった。
「しかし、パパがそんなに遅いとはな……」
シンクは人見知りで、寝室に逃げ込んだきり出てくる様子はない。こんなはずじゃなかったのに。
「……なあ、お前、うちでメシ食ってくか?」
「えっ」
ここまできたら、乗り掛かった舟というやつだ。
「つっても、何食わせたらいいんだろうな……。小学生って何食って生きてんの? 食べられないものあるのか?」
「えっと……あ、卵」
「卵食えねーの? 奇遇だな、俺もだ。一緒だな」
一緒だな、という言葉に凛の表情が柔らかくなる。「アレルギーなんです」という凛に、学は頷いた。
「他には? 卵以外にはアレルギーないか?」
「ない、です。卵だけ」
親の許可もなしに余計なことをしない方がいいのでは、という懸念もあったが、どのみちこの部屋に置いておくのであれば飯は食わせねばならないだろう。
「好き嫌いは? にんじんやピーマンも食えるのか?」
「うん、食べられる」
「すげーっ、偉いじゃん。お前くらいの頃、俺ピーマン食えなかったわ」
くりっくりの目がやはり犬のようで、ついアールに対する感覚で頭をわしわしと撫で回してしまった。
「あ、わりぃ……。てゆーかさ、そのボサボサ頭どーにかなんねーの?」
「あ、これは……」
「邪魔じゃないのか? ガキでも女の子なんだからさ、そういうの、気にした方がいいと思うぞ」
「え……」
「結んでやるよ」
凛はどことなく嫌
そうな顔をしたが、結局は大人しくされるがままになった。
子どもの髪は驚くほど柔らかい。毛は細くふわふわしていて、繊細なガラス細工に触れているような気持ちになる。色素の薄い髪を手櫛で整え、ポニーテールにしてやる。凛はなんともいえない顔をしていたが、すっきりした首元やぴょこぴょこ揺れるしっぽの先を自身で触って確かめると、ようやく満足げにへへっと笑った。
「凛、カレー好きか?」
「好き!」
「よっし。じゃあ今日はカレーにするか。生憎ウチには甘口のルーなんてないから、今からコンビニに買いに行くけど……」
「大丈夫です。辛いの好きです。食べられます」
「え~、ホントか……?」
「本当だもん」
「へいへい」
小さな体とピカピカのランドセルから察するに、一年生ってところだろうか。学が小学生の時分も両親共働きの〝鍵っこ〟はそれなりに多かったように思うが、凛に至っては最初から母親がいないのだ。父親は働きに出ねばならず、どうしたって凛が寂しい思いをするのは目に見えている。哀れには思うが、学にできることと言ったら、せいぜいこの子どもにカレーを作ってやることくらいだ。
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