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荷物を持って戻ってきた凛は「ありがとうございました。おやすみなさい」と、舌足らずながらもきちんと挨拶をし、アールには「またね」と名残惜しそうに手を振る。最初に声を掛けたときの警戒ぶりが最早懐かしい。
一方の柳は終始恐縮し、最後は「後日改めてお礼に伺います。夜分に失礼いたしました」と、自身の名刺を置いて帰っていった。
営業マンの謝罪かよっての、と思ったら、もらった名刺の肩書は有名商社の営業部主任だった。〝柳 彩人〟――まさに美丈夫といった風体の男だ。
それにしても、柳はいつもこんなに帰りが遅いのだろうか。今日は多少早いようだが、柳が帰宅するまで凛はいつも一人なのかも知れない。
凛がいなくなってようやく、寝室からシンクがそろりそろりと出てきた。
「シンク」
呼べば小さく返事をして近くにやってくる。あまりの可憐さに我慢できず、学はシンクを抱き上げ頬ずりとキスの嵐をお見舞いした。
「シンク~! お前はほんとに可愛いね……天使かな……天使なのか? いや、もう天使だよね、シンクちゃん~」
日次業務だ。
「ごめんな、お前は人見知りなのに。吃驚したよな。……ま、もうあのガキを部屋に上げることはないだろうけど」
今日は本当にどうかしていたのだ。
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