1.魔法使いか魔女

12/15
前へ
/15ページ
次へ
 実際、それから柳父子に会うこともなかった。  元より外出は多いわけでもない上、用事があるときは大抵平日の昼間に済ませてしまう。凛は学校、柳は仕事に行っている時間だ。ばったり会うことはまずないだろう。  学を誘ってくれるような友人は元同僚くらいだ。サービス業の宿命、平日休みで、人の多い土日にわざわざ出かけることは滅多にないのだ。  平日休みはいい。ほぼニートの今の状態ではあまり休みという概念(がいねん)はないが、ラッシュをとうに過ぎた電車に悠々と揺られるのは、ちょっとした優越感を覚える。  その日は元同僚に誘われ、ランチに出かけていた。  現役美容師である友人二人は特別に仲のよかった同期で、会えばいつも垢抜けた格好をしている。〝いかにも〟美容師といった様子だが、とはいえ一点一点は動きやすく汚れる前提のシンプルなもので、それでもお洒落に見えるのは本人の素材とセンスゆえである。二人はシンプルながらも元々の見目のよさも手伝い、女性客が八割を占めるこの代官山のカフェでかなり目立っていた。開放的なテラス席が人気の店で、学のお気に入りの一つだ。  そんな二人の前に、普段とあまり変わり映えしない格好で現れた学は、「それは酷すぎる」と第一声から怒られてしまった。  それなりに見える頭にしたつもりだが、毛先は不揃いで艶もない。伸びっぱなしの黒髪は結ぶことで何とか誤魔化している。これでは凛のことをとやかく言える立場ではない。 「あんまり人に会わない生活してるからなぁ」ランチを選びながら学は苦笑を浮かべた。平日はランチも安い。「あ、俺チキンとアボカドのガーリックアンチョビピザにしよ」 「人に会わない生活……? 俺には無理だな……精神を病む。いつから触ってないんだよ」 「えっと……二か月くらいかな」  友人二人は揃って呆れた顔だ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1313人が本棚に入れています
本棚に追加