1.魔法使いか魔女

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 こんな幼気(いたいけ)な犬コロに向かって、「二度と来るな」とは言いにくい。それよりも気になったのは、凛が一人でとぼとぼと寂しげに歩いていたことだ。お前、友達いないのか――そんな言葉が喉元まで出かかって、やめた。  先程のガキたちは、やはり学と同じマンションの中に消えていった。年齢も性別もバラバラだが、あのマンションに住む小学生のコミュニティなのだろう。ところが凛は同じ場所に帰るにも関わらず、一人ぼっちで歩いている。大人しいタイプの凛はなかなか馴染めないのだろう。 「そういえば、髪結んでねーじゃん。せめてもうちっとブラシで()かすとかさ……」  凛の髪はあれから更に伸びたようだ。肩より長くなった髪はやっぱりボサボサで、控えめに言ってもやはりみすぼらしい。 「さくらさんは、髪の毛切りましたね」  自分の頭には頓着せず、凛は無邪気に笑って「かっこいい」と学を見上げている。学はふんと鼻で笑った。学を実験台にした後輩はなかなか筋がよく、手直しもほとんどなしに仕上がった。伸びっぱなしだった髪は、目や耳にかからない長さに清潔に整えられている。サービスでトリートメントまでしてもらい、今の学は柳にも対抗できる爽やかさだ。 「お前は相変わらずボサボサな」 「……お前じゃない。凛」 「はいはい、凛。パパがやってくれないんなら、自分で覚えろ。そんなボサボサ頭じゃモテねーぞ。せっかく可愛い顔してんだからさ。な?」  凛はなんとも言えない顔だが、学はそれに気付かないふりをした。  エレベーターホールにはまだ先程の小学生がたむろしている。同じエレベーターには絶対に乗りたくはない。適当に時間をずらすのが正解だ。 「凛、今日は家の鍵、ちゃんと持ってるな?」 「持ってます」 「よーし」  それならば安心だ。学はコンビニに寄る用事を思い出したふりをして、マンションの前で凛と別れた。適当にコンビニをブラついてから帰れば一安心だろう。やはり子どもは嫌いだ。いくら凛がマシかもしれないと言っても、それはあくまで他の子どもと比べて、という話である。子どもは子ども。例外などない。
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