1313人が本棚に入れています
本棚に追加
***
満開の桜が散ってしまうと、不安定な雨と強風が数日続いた。
マンション前にある公園の遊歩道は、一帯が桜の並木道になっている。少しの遊具と、整備された芝生の広がる広場は、ちょっとしたピクニックにもうってつけで、土日は家族連れで賑わうスポットだ。ソメイヨシノが満開の頃には少ないながらも出店が並び、花見客も訪れる。遊歩道はアールの散歩コースだが、近所の愛犬家にも定番コースのようで、犬連れで歩く人を度々見かける。
学は積極的に人の多い場所へ出掛けるタイプではなく、特にいつも以上に子どもが多い土日の昼間は極力避けて通ってきた。しかし土曜日の今日……正午を過ぎたばかりの危険な時間帯に、アールを伴って散歩に出かけたのは、昨日から続いていた雨が今しがた止んだからだ。
公園をどんどん奥へ進むと、やがて鬱蒼とした風景になっていく。ソメイヨシノの並木道もいつのまにか途切れ、ひとたび遊歩道を外れるとそこはさながら森の中のようだった。とはいえ、ここは整備された公園の中だ。この辺りには八重桜が疎らに植えられ、四月後半の今の時期、満開を迎えていた。
昨日の豪雨と強風で花は随分落ちてしまい、地面は鮮やかなピンクに染まっている。普段はこの辺りも家族連れで賑わっているはずだが、雨上がりの公園は誰もいない。
雨上がりは大好きだ。濃い緑と花びらのピンクのコントラスト、公園は霧がかかってそれはとても幻想的で贅沢な光景に思えた。
-----
ここまで読んで下さってありがとうございます!
試し読みはここまでになります。
続きはkindle版でお楽しみください!
最初のコメントを投稿しよう!