1.魔法使いか魔女

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 何か月も手を入れていない伸びっぱなしの黒髪を無造作に纏め、コーヒーを啜りながらリビングのノートパソコンの前に座る。暇潰しにはじめた株と為替は相変わらず暇潰しの域を出ないけれど、今や立派な収入源の一つだ。こんな生活をはじめて、もう二年近くになる。  そのため、ついいつもの癖で電源を入れそうになり、学はハッとした。在宅勤務がほとんどで、休日という概念に乏しい学だが、今日は一日休みと決めている。アールを連れて出掛けるのだ。  春らしく空は霞んでいるが天気はいい。  桜の蕾が膨らんでいることに気付いたときは驚いた。アールの散歩のため毎日のように歩いていた公園だが、締め切りに追われるあまり、春の訪れに気付く余裕もなかったらしい。寝不足の仏頂面で、傍目にはさぞ不機嫌な男に映ったに違いない。不規則になりがちな仕事だからこそ、なるべく毎朝同じ時間に起きるよう心掛けてはいるが、締め切り前はどうしても計画通りにはいかない。暖かい日が続いたので、そろそろ桜は咲いている頃だろうか。 「さあ、アール。今日はお出掛けだぞ」  留守番の黒猫の頭を撫で、学はアールのリードを持った。
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