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幸いにして、六時前には凛の父親と電話が繋がった。事情を説明し夕食を与える許可を求めると、父親は可哀想なほど恐縮してしまい、なぜだか学が申し訳ない気持ちになった。
凛は夕食の後、ソファでうとうとしている。辛口にりんごとはちみつを入れたカレーは凛にも好評で、我ながら天才か、と学自身も大変満足しているところだ。
玄関のインターホンが鳴ったのは、二十時を過ぎた頃だった。
うとうとしていた凛がハッと目を覚ます。凛は慌ててモニターに駆け寄って、「パパだ!」と嬉しそうに叫んだ。モニターにはスーツの男が映っている。
「早く開けてあげな」
「はいっ!」
凛はぴょんぴょんと飛び跳ねながら玄関に向かい、その後をアールがついていく。リビングで仕事をしていた学も、ノートパソコンを閉じると立ち上がった。凛のパパにご挨拶をしなければならない。
玄関には、スーツの男が息を切らして立っていた。よほど急いで帰ってきたとみえる。長身の、驚くほどの男前だった。
「あ、どうも……先程お電話した佐倉です」
「ご連絡をありがとうございました。私、凛の父親の柳と申します。この度は大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
凛の父親――柳と名乗った男前は、深々と頭を下げた。色素の薄い髪はワックスで軽く撫でつけてある。くっきりした二重瞼。凛と親子であることを、疑う余地もない。よく似た父子だ。
「いえ、余計なことじゃなかったならいいんです」
「とんでもない。本当に助かりました、なんとお礼を申し上げていいか――……」
「いやいや、そんな大袈裟な。こちらが勝手にしたことですし」学はすっかり困り果てた。「お電話でお話した通り、夕食はうちでカレーを食べさせました。卵は食べさせてないので、安心して下さい」
「何から何まですみません」
凛は父親の足に纏わりつき、「カレー、すごく美味しかった」と報告している。
「それはよかった」学は努めて爽やかに微笑んでみせた。「荷物持っておいで。パパと帰りな」
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