第1章 3年前 今日子とさくら色の石

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今日子は、両親の住む街から車で一時間程の海の見下ろせる海岸沿いの街に暮らしていた。 二人の息子達はサッカーのクラブチームに所属しており、二人をクラブ指定のバス停に降ろした後、次はひとり娘の新体操の送り迎えの為に国道三号線を行ったり来たりと、いつも慌ただしい午後を過ごしていた。 娘の新体操のレッスンは、二十キロ程離れた隣町の体育館で行われる為、車の中で食べるおやつを予め用意しチャコットのレオタードとタオル、手具のリボンとフープを車に積み込んで学校が終わるのを校門で待ち構え、乗り込んだと同時に急いで三号線を飛ばす。 三号線は真っ直ぐで走りやすく、コンビニを右に折れて体育館まで続くケヤキ並木は、清々しくて好きなコースのひとつだった。 慌ただしい毎日ではあったが、車の運転と音楽が好きな今日子にとってそれは少しも苦では無かった。 むしろ自分らしくリラックス出来る時間でもあり、子供達との他愛のない会話はいつもの事ながら、とても貴重で愛おしく感じられる瞬間でもあった。 土曜日は新体操のレッスンが午前中で終わる。 初夏の爽やかな風が、娘のポニーテールを心地よく揺らし、桜並木の柔らかな木漏れ日が、汗ばんだ娘の顔をキラキラと輝かせていた。 「さぁ!これからどうしようか?」 今日子と娘は悪戯っぽく ニッッと笑って同時に 「マック!」 近くのマックで軽くお昼を済ませた後 、本屋に行く事で二人の意見が一致した。 本屋といっても半分は雑貨とレンタルビデオ店が占めていた 。 二人は本と雑貨が好きでゆっくりと時間をかけて一通り見て回り、最後にプリクラを撮った。 モノクロで撮ったプリクラは、前歯が抜けたばかりの娘の笑顔が愛らしくもあり可笑しくもあり、今日子はクスクスと笑った。 娘はほっぺを膨らませ、怒った顔をして見せた。 が、すぐに吹き出して、二人は顔を見合わせて再び笑った。 娘はカラフルなボールペンを五本。 今日子はお気に入りのディーン.クーンツとスティーヴン.キング二冊の本を手にそれぞれのレジに並んだ。 土曜日という事もあって店内は親子連れも多くレジは混んでいてなかなか進まなかった。 向かい側の雑貨コーナーのレジに並んだ娘と目が合い、人の多さに苦笑いし、時間つぶしに何となく眺めているその時だった。
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