第13章 blue letter

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その年の6月。 良く晴れた優作の誕生日に甑島の沖合に大勢の友人達と家族によって優作の骨は散骨された。 串木野港からの帰り道、今日子は船に乗る前に飲んだ酔い止めの薬がなかなか抜けず眠くて頭がぼうっとしていた。 国道三号線。 海沿いの錆びたドライブインの駐車場‥ 今日子は仮眠をとってから帰ろうと車を止めた。 海を見つめて優作の事を思えば涙が枯れる事はなかった。 存在はあまりにも大きく、今日子の掛け替えのない大切な光はこの世から消えてしまった。 「自分の力で自分らしく勝負しろ」と優作に言われている様な気がした。 再び決心したかの様に今日子は海岸沿いに車を走らせた。 窓を開け、ラジオをつけた。 潮風と共に流れてきた曲はどこか聴き覚えのあるリズムだった‥ この曲‥ 今日子はいきなりとてつもなく温かな懐かしさに包まれ胸が詰まった。 そして再び今日子の目から堰を切ったように大粒の涙が次から次へと溢れた。 この曲‥‥ あの時優作が歌詞を間違えて‥ それは優作が中学最後の夏休みに自分で歌って録音したあの曲だった。 あの時‥‥間違えた所を何度もリピートしては優作をからかってお腹がよじれるほど二人で笑った。 曲は、当時の何の疑いもなく幸せだった瞬間を昨日のことの様に鮮やかに懐かしく蘇らせた。 曲の続きを聴きたいという今日子に優作は今日子がうちを出る日までに、このバンドのこの曲をダビングして持たせてくれると約束してくれた。 ところがデッキの調子が悪くなり約束は叶わなかった。 あの時のバラード‥ 優作の歌わなかった曲の続きが流れる‥‥‥‥ 甲斐バンド‥ 甲斐バンドの ‥「 blue letter ‥」‥ イタズラ好きな優作の "最後のサプライズ" ‥ どうだ姉貴!約束は果たしたぞ!と言いたげなアイツの "したり顔" が目に浮かんだ。 今日子は泣き笑いしながらその涙を拭った。 道はまだ続いていた。 〜おわり〜 甲斐バンドの「 BLUE LETTER 」は優作の青春時代を思わせるような儚くも切ないバラードだった。
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