第2章 37年前 君枝とポプラの木の庭

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君枝は茂雄の帰りを待っていた。 朝からご近所の手伝いを貰いながら、一歳になったばかりの息子をおぶったまま、お茶の準備をしたり、お昼にみんなで食べるおにぎりや、煮しめ作りに追われていたが、娘が隠居の縁側で犬のコロと大人しく遊んでいてくれたので仕事は捗った。 茂雄は家の奥の空き家に越して来る友人の為に、二日前からトラックで大阪に出掛けていた。 「午前中には荷物を積んで帰ってくる。」と昨日茂雄から連絡が入っていた。 十時少し過ぎ、みんなが見守る中、荷物を山積みにしたトラックがゆっくりと生垣の間から青い車体を少しずつ見せはじめた。 生垣は狭い上に急なカーブになっているためコツが必要でトラックは慎重に進んだ。 君枝は長距離の運転をする茂雄の事が心配で二日間あまりよく眠れなかった。 運転席に茂雄の笑顔が見えた時ほっと胸をなでおろした。 頼まれると断れない夫に腹が立つ事もあるが、 そこがまた茂雄の良い所である事も君枝は知っていた。 君枝はエプロンで手を拭きながら小走りで縁側にいる娘の横へ並び、娘は二日ぶりに会う父親に照れ臭そうに笑って手を振っていた。
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