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「そうだ。婿はヤギがスーツを着ておるような、大人しい男じゃな。娘の華枝も控えめで地味な女で、なぜあの二人から亜利紗のような顔も行動も派手な娘が生まれたのか謎じゃな」
ヤギがスーツ、という一言に噴き出しそうになりながら、一砥は慌てて表情を引き締めた。
「それより問題は花衣のことです。もし泰聖の言葉が本当ならば、彼女は産まれてすぐに里水香代に引き取られ、彼女の実子として育てられたということになる。そして夫は何も知らなかった」
剛蔵も表情を変え、「……確か、高蝶華枝が娘を出産したのは、静岡の有名な産院じゃったな。もしかして里水香代もそこにおったのか」と低い声で言った。
「はい、以前花衣に聞いたことがあります。母親は流産しやすい体質だったらしく、わざわざ評判の良い静岡の産院で自分を出産したのだと」
「そうか。ならばおそらく、香代の方はそこで我が子を流産したのだろう。そして華枝から双子の片割れを引き取った……。なるほど、あの噂は本当じゃったか……」
「噂とは……」
剛蔵は苦々しい顔つきになり、「馬鹿な迷信だ」と吐き捨てるように言った。
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