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二度目の暴言だったが、しかし今度は一砥はそれを許さなかった。
「今、何と言った?」
彼の表情と声音が変わったことに気づき、泰聖は振り向いた。
「汚れた経歴だと? よくもそんな台詞が口に出来たな」
一砥の顔に殺気じみた怒りが浮かぶのを見て、高慢な老人は一瞬言葉を失くした。
「おい君、誰に向かって……」
一砥はぐっと泰聖に詰め寄ると、高価な絹製着物の襟を両手で掴んで持ち上げた。
「な、お前……、よせ……よさんか……」
息苦しさに泰聖の顔色が変わり、一砥はそこで手を放した。
ゲホゲホと激しく咳き込む老翁を睨みつけ、一砥は言った。
「今度彼女を侮辱してみろ。こんなものじゃ済まさない。二度と減らず口をきけなくしてやる」
泰聖は肩で息をつきながら、それでも凝りないのか「この、身の程知らずの若造め……」とまた毒を吐いた。
「いいか、これが最後の忠告だ。あの娘に関わるな。あれは呪われた子だ。あんな娘を嫁に迎えれば、雨宮の家にも災いが及ぶぞ!」
切れ切れの息で必死に脅しをかける老人を、一砥は冷めた目つきで見返した。
「あんた、さっき俺には愛は幻想だなんて言っておいて、自分は呪いだとか災いだとか、もっと陳腐なものを信奉しているんだな……」
「むぅ……!」
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