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自身の半分の年にも満たない青年にあっさり論破され、泰聖は屈辱に顔を歪めた。
老紳士を気取る余裕も消えて、醜い本性がその面上に浮き彫りになる。
醜く歪む顔を真顔で見返し、一砥は「真実を話す気がないのなら、これ以上ここにいる理由もない。失礼する」と、いきなり相手に背を向けた。
敬うポーズを止めた相手に、泰聖は怒りも露わに怒鳴った。
「待て、貴様、儂の話はまだ終わっておらんぞ……!」
しかし一砥は振り返ることなく、そのままさっさと屋敷を出た。
*****
高蝶家から出た一砥は、すぐに剛蔵に連絡した。
「至急会って話したいことが」と伝えると、幸いにも今、同じ文京区内の日本料理店で会食中だと言う。
「もうすぐ解散だが、お前が来るならこのまま待つぞ」
「お願いします」
電話を切って、一砥はタクシーを呼ばずにそのまま歩いた。
剛蔵のいる店までは約二キロの距離だが、敢えて徒歩を選んだのは、祖父に会う前に頭と感情を落ち着かせたかったからだ。
二十分後、一砥は風情ある佇まいの日本料理店に到着した。
剛蔵の古い知り合いである板長が経営する、魚料理が評判の名店だった。
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