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店の前に到着したタイミングで、若い学生風の団体がぞろぞろ出て来たため、店とそぐわないその客層に少し驚いた一砥は、彼らと一緒に羽織袴姿の剛蔵が現れたのを見てさらに驚いた。
「今日はありがとうございました」
「料理も美味しかったです。ごちそうさまでした」
見るからに真面目そうな八人の青年達は、剛蔵に口々に礼を言い頭を下げた。
剛蔵も満足げに頷き、「うむ。儂も楽しかった。ではまたな」と笑顔で彼らを見送った。
青年達が帰った後で、祖父はようやく傍らに立つ孫に気づいた。
「来たか。ちょうど良かったな」
並んで店に入り、一砥は「今の者達は?」と訊ねた。
「近くのT大キャンパスに通う学生達だ」
剛蔵はあっさり答えた。
「会社を良くするには優秀な人材が必要じゃからな。うちに関心のある者を知り合いの教授に紹介してもらい、時々こうして交流会を開いておるんじゃ。彼らとて、自分が働く会社のトップがどんな人間かくらい、知っておきたいじゃろうしな」
「そんな活動をなさっていたとは、知りませんでした」
「言っておらんからな」
剛蔵は笑い、店の個室に一砥を招き入れた。
「それで、折り入って話とは?」
座敷席で向かい合って座り、一砥は座布団から下りると深々と頭を下げた。
「申し訳ございません。高蝶泰聖を怒らせました」
「……ふむ。あいつの家はこの近くだったな。その帰りにここへ来たか」
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