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「戦国時代の話になるが、当時の高蝶家は長男が早世したことで双子の弟が家督を継いでおった。その折に関ヶ原の戦いが起こり、当主の独断で恩ある豊臣家を裏切り東軍についた。結果は知っての通り東軍の勝利で終わり徳川の時代となった。幕末時もまた、兄に代わって弟が当主となり、倒幕側について利益を得た。そして高蝶家に暗黙のルールが生まれた。双子が生まれた場合、兄でなく弟に家督を継がすべしというな」
「……つまり、関ヶ原の時も明治維新の時も、高蝶の家には双子がいたということですね。そして下の者が家督を継ぐことで、あの家は激動の時代を上手く生き抜くことが出来た。まさかそれだけの理由で、花衣は養子に出されたと言うことですか?」
「そうだ。それだけの理由で、あの子は赤の他人の家の子にされた。おそらく祖父の命令だろう。双子の両親が自らそれを望むはずはないからな」
「亜利紗は何も知らないのでしょうね」
「知らんだろうな。おそらく両親以外では、高蝶泰聖と病院の院長、一部のスタッフしか知らんことだろう。ひょっとすると父親の方も、何も知らされていない可能性もある」
「……このことを知れば、花衣はきっとショックを受けるでしょうね」
一砥が沈痛な表情で呟くと、剛蔵はそこで、信じられない台詞を口にした。
「お前まさか、あの娘に本当のことを教えるつもりか?」
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