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ついいつもの癖で遠慮しそうになった花衣だが、ここで彼の厚意を拒み安っぽいファッションで出席すれば、逆に一砥にも雨宮会長にも恥をかかせることになる、と考えた。
言葉を途切れさせた後で、花衣は「分かりました」と頷いた。
「亜利紗にアドバイスを貰って、素敵なドレスを選びます。あの、靴と鞄も買っていいですか」
「いいぞ。ついでに数着、予備も買っておくといい」
花衣はクスリと笑い、「それは、まだ婚約もしていないのに、私を甘やかしすぎですよ」と言った。
一砥は置いたグラスを再び手に取り、すまし顔で答えた。
「そう言うなよ。君を甘やかすのが俺の趣味なんだ。ようやく見つけた唯一の趣味を取り上げないでくれ」
*****
花衣が夕食後の片付けをしていると、書斎で仕事をしていた一砥が戻ってきた。
まだ洗い物の途中の彼女の首筋に後ろから軽いキスをして、一砥は甘えるようにその腰に両手を絡ませた。
「あとどのくらいで終わる?」
「一〇分くらいです」
花衣が笑いながら答えると、一砥は「じゃあ一〇分の間、こうしていていいか?」と子供みたいな甘えを言った。
「駄目です。邪魔です」
すげなく断られ、一砥は「ちぇ」と、また子供っぽく拗ねてみせた。
花衣はクスクス笑い、「片付けが終わったら、一緒にお風呂に入りますか?」と訊ねた。
「入る」
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