第三章

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 東の大正門では銀龍騎士団が出発するという情報を聞きつけた民衆達が、騎士の家族達と混ざりながら道沿いや建物の窓から手を振っていた。騎士に憧れる少年少女、出発する騎士の妻や夫、その家族達の祈りが七百人の騎士達を囲んでいる。  そこに小隊長の騎士達や騎士団長であるデルが馬で大通りを抜けて来ると、自然と民衆達の歓声は大きくなった。  デルも他の騎士達と同じように手を振って民衆達の声援に応えていると、民衆の隙間を縫ってエルザが近づいてきた。 「あなた、気を付けて」 「………分かっている。帰ったらまたワインを用意しておいてくれ。今度は寝る前に話を終えてみせるよ」  馬から体をかがめたデルはエルザから短い抱擁を受けると、そうだと思い出したエルザが小さな手紙をデルに手渡す。 「先ほど、ギュードさんがこの手紙をあなたへと」 「ギュードが?」  デルは手紙を受け取るとそれを裏表にひっくり返しながら宛名を確認するが、何も書かれていない。デルは妻から預かった手紙を鎧の中にしまい込むと、小さく『行ってくる』と手を振って、騎士団の先頭へと馬を進めていった。 「各自、準備はできたか?」 「「「「「はっ」」」」」  騎士団長の声に騎士達は一斉に声を合わせる。 「銀龍騎士団、出陣する!」  デルが手綱を叩き、馬をゆっくりと走らせた。
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