第九章

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第九章

 洞窟の中は松明の光が隅まで届かないほどに広大な空間で、ここにいる者達は互いに触れ合える距離にいなければ、常に方向感覚を失う恐怖を感じずにはいられなかった。  デルは過去の記憶を頼りに先頭を歩き、壁伝いに進んでいく。  幸いこれまでの冒険者達が残した壁の傷によって迷うことなく進むことができ、途中休憩を挟んでも5時間後には外の明かりを感じられる場所まで辿り着くことができた。 「団長、洞窟の入口には誰もいないそうです」  偵察に向かわせた騎士の報告を聞いたバルデックが、水筒を傾けていたデルに伝える。 「予想通りだな」  デルは水筒に蓋をすると、待機している騎士達に声をかけた。 「洞窟を出ると周囲は森で囲まれているはずだ。1班は左、2班は右の偵察を、3班は洞窟内で野営の準備。4班は俺と共に街までの最短の道を探すぞ」  出発時に即席に作り上げた小隊代わりの班にデルが指示を飛ばすと、騎士達が小さく頷く。 「全員、鎧を洞窟内に置いていけ。バルデックは洞窟の入口で野営の指揮を執れ。くれぐれも火は使わせるな」 「了解です………団長もお気をつけて」  緊張した顔のバルデックに、デルは心配するなと洞窟を最初に抜けた。  洞窟の周囲はデルの記憶よりも森が深く生い茂っており、随分と昔に立てられた洞窟前の立て札は苔と蔓で覆われ、今にも朽ちそうな傾きを芸術的に保っていた。  デルは森の間から見えた太陽の高さと角度から大よその時間をはかると、騎士達に鎧を脱ぐ指示は正解だったと頷く。まだ太陽は南中したばかりで、いくら森の中と言えど、黒銀の光沢が太陽の光に反射し、空からの偵察に気付かれる恐れがあった。  腰に帯刀した騎士達が次々と洞窟から出ていき、指示された方向へと無言で向かう。デルも10人の騎士を連れて正面の森へと入り、森の茂みが切れるまで前進を続けた。 「10年も経つと、随分と自然は変わるものだな」  デルは木陰を傘として、腰の高さまで生えている植物の中に体を隠し、正面に広がる草原を見つめる。  草原の先にはやや景色が歪んでいるがゲンテの街が見えた。馬を使えば10分程度だろうが、馬のないデル達にとっては30分はかかる距離になる。
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