-紅-

1/2
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ

-紅-

 デルが出発したその夜、フォースィは倉庫の中に足を踏み入れた。  今日は魔法を使わなかったため、体の中にある程度の魔力が蓄積しているのが分かる。あと2日もすれば真紅の神官服も着ることができるだろう。彼女は今自分が着ている借り物の服のサイズを見ながら考える。  階段を降りる。  その先は左右に道が分かれており、フォースィは左の道を選んだ。 「二百年………人の考えが変わるには十分な時間だったわね」  書庫の扉を開けると、目の前には王国の歴史がつづられている本が並べられた本棚が1つ置かれている。  フォースィはそれを順々に確かめながら背表紙に指を這わせ、11と13の本の間でその指を止めた。 「12巻………」  12代目女王リリアの時代の歴史はそのほとんどが公にされていない。  カデリア王国と戦争があった、その戦争に勝利しカデリア王国を併呑、ウィンフォス王国はこの大陸一の大国となった。どの歴史書も載っている文言だが、それしか載っていない。古い絵やタペストリー、言い伝えで断片的に残っている物語はあるが、矛盾をはらみ、突拍子もない物ばかりで、国民の大多数は信じていなかった。  多くの人間にとって生活には差し支えないために無関心となっているが、一部の歴史家や探検家からは『失われた歴史』として研究が続けられている。 「ギュードの依頼はこれで完了ね」  フォースィは肩にかけてあった鞄から、薄い動物の皮をなめしたものに包まれた四角いものを取り出す。そして、なめし皮をゆっくりと開いていくと2冊の本が姿を現した。  そのうちの1冊には表紙には何も書かれておらず、背表紙には12の数字だけが記されている。フォースィはその本の最初のページをめくり、真っ白な空白に誰かが追記した文章に目を通した。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!