第五章

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第五章

 ゲンテの街には教会が2つある。1つは街の中心に時計代わりの鐘楼をもった立派な教会。そしてこの街ができた時に作られ、今は使われていない廃墟と化した南の教会である。  放置された教会は外壁こそ残っているものの、屋根の一部は崩れ落ち、窓のガラスも随分と前になくなっているらしく、窓枠はカビと苔の土壌となっていた。  デルは青い鎧を着た少女に案内され、その古びた教会の中へと入っていった。 「あら、随分と遅かったのね」  誰も手を合わせなくなった教会の天井からは、月の光が空気中の埃と共に石畳を照らし、触れれば朽ちてしまうような木の長椅子の列が幻想的な風景を作り出している。  そんな空間の司教が立つ主祭壇の前で、鮮血のような真紅の神官服を纏った女性が立っていた。  肩に触れる黒髪が服の色と合わさり、修道女でありながら妖美で邪悪な印象を生み出している。さらに彼女の右手が握っている高級神官がもつような錫杖の上には青銅でつくられた竜の彫刻があしらわれ、一層にその印象を強めている。 「まったく、師匠に似て弟子も下品になるとはな。可哀想に」  デルは女性の姿を見るや、苦笑いをしながら比較的無事な椅子の埃を払って腰かけると堂々と足を組んだ。  少女はデルの横を通り過ぎて赤い修道女の傍に立つと、お使いに帰ってきた子どものように成果を報告する。 「お師匠様、言いつけ通り連れてきました」 「ええ、ありがとう。あなたは周辺に怪しい人が来ないか、警戒して頂戴」「はい!」  真紅の修道女に頭を撫でられた少女は目を輝かせながら、次の指示に従おうと壊れた壁から外へと出ていった。 「下品? とてもいい子じゃない」 「良く言うぜ。あんな言葉を覚えさせておいて」  女性の笑みに、デルは半ば呆れたように両手を開く。 「あんな言葉? ああ………あれね。この前王都でギュードと会った時に、彼があなたのことを話題にしていたのだけれど、違ったかしら?」 「かなり違うし誤解もいい所だ。今度俺が奴に合ったら話を付けておく」  デルが足下の石畳を強く踏むと、隣の長椅子が音を立てて崩れ落ちる。
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