第六章

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第六章

 集落の中心部へと向かう歩数が増えるごとに全体の状況が視覚的に伝わってくる。    西口から突入したデル達は井戸のある中央の水場へと辿り着いたが、既にその場所での戦闘は終わっていた。おびただしいゴブリンとオオカミの死骸、さらに猪型の亜人のオークの大きな体がいくつも横たわっている。 「団長、これは………ゴブリンだけではなかったのですか?」  デルと共に突入に成功した騎士達が不安がるが、デルはそれ以上に嫌な予感が頭から離れなかった。水場は騎士や蛮族の死骸で真っ赤に染まり、東に設けた複数のバリケードは完全に破られている。どうしたらこれがゴブリンごとき蛮族達の仕業と言えるだろうか。 「考えても仕方がない、先に進むぞ。全員全周囲警戒!」 「「「「はっ」」」」  デルは腰の剣を抜くと、正面と左右に騎士を展開させ、死骸の道が続く北通りを目指した。  通りの先には集落で最も大きな集会所があり、デルがまだこの村に滞在していた時に、村長から祭りなどの行事で村民たちが集まる場所だと聞いていた。村人達が立て籠るのならばそこしかない。  途中にあった村長の家は既に焼け落ちており、騎士でも蛮族でもない誰かの焼死体が数人分家の下敷きになって転がっていた。 「最悪だ」 燃え続ける民家の火の粉と凄惨のな地面の様子にデルは目を細める。夕方でもないのに黒煙と炎で視界がすこぶる悪い。さらに集会所に近付くほどに、蛮族よりも騎士とこの集落の住民の死骸の方の割合が増えている。デルの後ろを走る精鋭の騎士達もさすがに言葉を失い、何人かは手に口を当てて走っていた。  そして聞こえる金属がぶつかり合う音。時に激しく、時には高い音を上げる金属音は誰かが戦っている証拠であった。 「まだ、誰か戦っているようです!」「団長、前方にゴブリンを発見!」  僅かな希望を前に、民家から出てきた複数のゴブリンがデル達に立ちはだかる。家から顔を出したゴブリンの手には金色の細い髪の束、そしてその先には物言わぬ同じ背丈の少女が引きずられていた。
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