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第八章
「そう言えば礼を言っておかないとな」
デルは先頭を歩くフォースィに案内されるまま集落を歩き、後ろから声をかけた。
「ゲンテの街では、部下達が世話になった」
デルはゲンテの街で蛮族達の奇襲を受けた騎士達が、赤い神官服の女性に助けてもらったという報告を思い出す。
フォースィはそのことかと短く答えると、振り返ることなく明かりの灯っていない倉庫の扉に手をかけた。
「気にしないで良いわ。私も彼らが置いていった物資を分けてもらったのだから」
倉庫の扉が簡単に開けられる。
「そういえば、あの小さな子はどうした? 確かイリーナと言ったか?」
「………あの街で魔王軍と戦った時に離れ離れに。大丈夫よ、あの子は強いから。きっとまたどこかで会えるでしょう」
随分とあっさりと答える彼女の言葉に、デルはそれでいいのかと不安を抱きつつも、扉を抜けて進み続けるフォースィの後をついていく。
「で、どこまで行く気だ?」
「………デル。あなた、ここの場所に見覚えはない?」
壁に掛けてあった明かりのついていない魔導ランプ。フォースィはその隙間に置かれていた滑らかな長方形の白い石を掴むと、ランプの下についている引き出しのような箱を引き出して中に入れる。やがて魔導ランプは柔らかい明りを放ち始め、数秒でいつもの明かりの強さに光を出し始めた。
明かりが届くようになった部屋は、中身の分からない木箱がいくつか部屋の隅に積まれているだけで、それ以外は特に目立つ物はなかった。
「この村か? ああ、タイサとお前とでゴブリンの襲撃を迎え撃った集落だろう。もう10年近く前の」
「違うわよ。ここのことよ」
明かりが点いた倉庫の板壁の一部をフォースィが手で押し込むと、部屋の中で何かの歯車が動くような規則的な音が響き、何枚物の床の板が奥へと動くと、そこには地下に続く石畳の階段が姿を現した。
デルは床に現れた階段を見つめる。奥からは冷え切った空気が僅かな風となって部屋に入り込み、デル達の足元の気温を下げ始めた。
「どうやら覚えていないようね」
フォースィは驚くデルの表情を覗き見ながら、小さく頬を緩ませる。
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