さよならは言わないで

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これからする話は、俄かに信じられないと思うが聞いてほしい。 俺が、死のうとしていた本当の理由。 それは、君と出会わないようにするためだった。 君が失恋して、俺と出会うのは、実はあの崖ではなくて、ある居酒屋だった。 そこで、君はやけになり酒を浴びるように飲んで、死にたいと繰り返していたのを、居合わせた俺が慰めたところからが、俺たちの交際の始まりだった。 もちろん、今の君の記憶とは異なるので、君は、俺が何を言っているのかさっぱりわからないだろう。 あの崖で俺たちが出会う前に俺はタイムスリップした。 俺が癌で死んだ日、君は大いに悲しんで、すぐに俺の後を追って死んでしまったんだ。 俺は、魂になってから、その様子を見ていたから、止めることもできず、ただ見ていることしかできなかった。辛かった。結局、俺は、君を不幸にするために出会ってしまったのだ。 そんな絶望しかなかった。でも、君が、もし俺と出会わなければ? 君は、もしかしたら、死なずに済むかもしれない。 そう考えた俺は、黄泉の国からの迎えに無理を言って、君に出会う前に一瞬だけタイムスリップして死期を早めて俺たちの出会いを無かったことにしようと考えたんだ。 つまり、会う前に、君にさよならをしようとした。     
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