さよならは言わないで

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「俺は、人を愛することが怖いんだよ。」 きっとそれは、自殺しようとした理由なのだろう。 「好きな人が居たんですか?」 「うん、凄く好きな人が居た。」 私は唇を噛む。過去のことに嫉妬しても仕方がない。 でも、きっとその人が今も北村さんの心の中に棲んでいるのだ。 だから、私の入り込む余地なんてないのだ。 そう思うと、胸が苦しくなって、涙がこぼれた。 泣いている私を、彼の腕が抱きしめた。 あまりのことに、私は驚き、彼を見上げると、彼の唇が私の唇に重なった。 それだけでもいい。少しだけ、私のことを見てくれればそれでいいから。 だから、さよならは言わないでください。 傍に置いてくれるだけでいいから。 そんな曖昧な関係の時間が、どれだけ過ぎたことだろう。 彼が別の支社に転勤になることになった。 私はショックで、着いて行きたかったけど、言い出せなかった。 私も、人を愛することが怖い。でも、もう遅すぎたのかも。 「着いてくる?」 そんな私に、彼は信じられない言葉を投げかけて来た。 私は嬉しくてまた泣いてしまった。 「でも、約束して。もう、何があっても、死ぬことを考えないって。」 彼は、真顔で私にそう言った。     
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