さよならは言わないで

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 私とその男は、警察車両に乗せられて、地元の交番で根掘り葉掘り関係を聞かれたが、まったくの初対面、関係があるはずもない。警察はどうやら心中を疑ったようだが、二人がまったく無関係なのを知ると、解放してくれた。二度と二人とも、バカな考えを起こさないようにと重々言い渡された。  同時に解放され、警察署を出る二人に気まずい空気が流れた。気がそがれてしまった。 私は、先日、上司との不倫関係にピリオドを打ったばかりだった。もうあの会社には戻れないし、彼の奥様に実家にまで怒鳴り込まれた私には、もう帰る場所もない。父親は、カンカンに怒って、私を勘当し追い出した。彼からは、奥様とはもう愛情は無く、別れてお前と再婚すると言われ、その言葉をずっと信じていた。だが、実際は違った。  彼が奥様と二人の娘とともに、幸せそうに街を歩く姿を見てしまったのだ。私は、彼を責めた。すると、彼は面倒くさそうに、この関係をずっと続けて行けばいいじゃないかと言った。 酷い。あんまりだ。 私は、日曜日のある日、彼の家を訪ねた。 それが彼の逆鱗に触れた。逆切れされた上に、奥様の前で土下座をしながら私とは別れるので許してほしいと言い謝った。それでも、奥様は、子供の前で修羅場をさらした私を許せなくて、今すぐに両親に合わせろと迫った。  今考えれば、あの時の私は異常だった。子供には何も罪もないのに、彼の家に押しかけ修羅場をさらし、彼の子供たちを泣かせた。人として、してはいけないことをしてしまったのだ。     
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