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「お前もな!」
男はクスクスと笑った。
会計を済ませると、私が死ぬ気がそがれたのを確認して安心したのか、それじゃあと立ち去ろうとした。
「待って!」
私は、思わず呼び止めていた。
男は振り向いた。
「今度は、私に奢らせてください。」
私は、思わずそんな言葉をかけていた。どうしてかはわからない。ただ、このままこの人と別れるのが寂しかった。それに、この人は、またあの崖に戻ってしまうかもしれない。
だが、その人は、ゆっくりと首を横に振った。
「約束ですよ!先に死んだら許さないから!」
そう背中に叫ぶと、男は振り向いてとても悲しそうな顔をした。
「その言葉を二度も聞くとは思わなかったよ。」
そう謎の言葉を残して去って行った。
私は、職場を変え、一人暮らしを始めた。正直生活は苦しかったが、新しい生活の忙しさに、死ぬほど辛かった傷は癒えて行った。あの人のおかげだ。あの人、死んだりしてないかな。
せめて名前だけでも聞いておけばよかった。気が付くと私は、あの崖で出会った男のことばかり考えていた。
そして、数か月後、新しい職場で資格を取るために図書館に出向いたある日、偶然にもあの男と再会した。
「生きてた。」
私は、彼に微笑んだ。
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