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さよならは言わないで
疲れ果てていた。泣きたくなるような、青い空と海。どちらにしても吸い込まれそう。このまま空と海を渡る風になれたらどんなに良いことだろう。最後に見る風景としては申し分ない。
岩に打ち寄せる波は、私の体をバラバラに壊してくれるのだろうか。それとも、しくじって崖の木に引っかかって無様な姿になるのだろうか。どちらにしても、美しくない光景だ。
意を決して、私は、つま先に力を入れると、体を前に倒そうとした。その目の端に、もう一つの影が映った。その影も、私と同じように、ゆらりと身を崖から投じようとしていた。ああ、この人も自殺しにきたのか。男性らしい。どうやら、あちらも私に気付いたようで、はっとした顔をして、こちらに駆け寄ってきて、私の体を支えた。
「どうして?こんなはずじゃなかった。」
その男は、私の体を支えて抱きかかえると、大粒の涙を流した。
私より、だいぶ年上のようだった。年のころは、50代だろうか。
この人は何故泣いているのだろう。
その男は、慌てて涙を拭うと
「と、とにかく。若い女性が、自殺なんて馬鹿なことを考えるのはやめなさい。」
と毅然とした態度で私を立たせた。
その言葉を聞いて無性に腹が立った。
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