2 心奥

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 暇さえあれば、外でサッカーをしていた小学校時代。もともとサッカーが大好きだったわけではなく、仲のいい友達がみんなサッカーをしていたから、自分も一緒に遊ぶという感じだった。  プロ選手の華麗なプレーを見よう見まねでやってみた記憶もある。はじめは全く形にならなかったプレーが、遊べば遊ぶほどできるようになっていく。気づけば、遊び=サッカーしかないくらい、その魅力に取り()かれていたかもしれない。  そして、小学6年生の秋……思い出作りも兼ねて、地元の小学生を対象としたサッカー大会へ出ようという話になった。それが今まさに眺めている写真、そのグラウンドで行われた大会だった。  地元の小学生を対象とした大会に、なぜ純くんがいるのだろうか。普通に考えれば、小学校の時に純くんが同じ町に住んでいたことになる。そして高校生になった今、僕らは同じ学校に通い、同じクラスになり、同じ時間や空間を共有している。こんな偶然ってあるのだろうか。もしかして、また夢……そう思わずにはいられない状況に僕は混乱していた。 「遥ちゃん、ごめん」  ほどなくして純くんが戻ってきた。ソファとは逆サイドに立っている僕を見て、少し驚いていた様子でもあっただろうか。 「……こ、この写真」 「……あぁ、小6の時のやつ」  少し黙り込んでしまった純くん。近くのベッドに腰掛け、僕を隣へ導くように、マットレスをポンポンと触っていた。そのサインを見逃さずに、純くんの横へ静かに腰掛ける。 「この大会に、遥ちゃんいたよね?」 「……へっ」  自分も出場していたことを伝えて、純くんを驚かせようと思っていた。そうすれば、きっと僕が抱いている「なぜ」「どうして」も解消されるに違いないと思っていた。ただ、驚かせるどころか、自分自身が驚いてしまうような返答にフリーズしてしまう。なぜ、僕がいたことを知っているのだろうか。 「遥ちゃんのこと、あの大会で知ったんだ」 「……へっ」  相手チームのことまでは正直あまり覚えていないけれど、僕らはあの日、準々決勝で対戦したらしい。大差で負けてしまったという記憶だけは、何となく残っていた。 「あの時の遥ちゃん、強烈なミドルでゴール決めたよね」 「……」  その言葉を聞いて、少しずつ試合の記憶が(よみがえ)ってくる。そういえば、あの試合で唯一もぎ取った1点は、僕のミドルシュートでの得点だっただろうか。それまでの試合とは違って、相手チームの鉄壁の守備に全く歯が立たない。どうせ突破できないなら……と開き直って、遠くから思い切りシュートを放ったら、偶然ゴールに吸い込まれていったことを思い出す。 「終わってから『あの10番は何者なんだ』って話題になって」 「……うん」 「親が持っていたパンフレットで調べたんだ」  純くんは、そういった経緯で「星越遥斗」という名前を知ったようだ。僕が引っ越していなければ、同じ中学校だったらしい。それぐらい近くに住んでいたことに驚きを隠せなかった。 「中学校になったら、一緒にサッカーできるって思ってたんだけどね」 「……うん」 「琉河(りゅうが)って知ってるでしょ?」 「……へっ」 「あいつから、遥ちゃんが引っ越したこと聞いたんだ」  こんなタイミングで、小学校時代の親友である「結野琉河(ゆいのりゅうが)」の名前が出てくるとは思わなかった。純くんとは中学校で3年間同じクラス、同じサッカー部だったらしい。 「琉河さ、遥ちゃんのこと楽しそうに話してて」 「……」  琉河が僕のことを話題にしてくれているなんて……想像したこともなかった。引っ越してからは、小学校の友達と全く連絡を取っていない。というより、高校生になるまでスマホを買ってもらえず、気軽に連絡できる状況ではなかった。  ただ、スマホで連絡を取り合っていたら、さらに心細い日々を過ごしていた気がする。中学で殻に閉じこもってしまったことを考えても、そんな自分を知られたくないという気持ちを考えても、それでよかったと思っていた。
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