あいつはご遠慮願いたい

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あいつはご遠慮願いたい

 結露のせいでくもった硝子の窓を拭うと、末広(すえひろ)あかね《あかね》の目の前には星屑のように輝く雪国が広がっていた。  夜更け過ぎから降り始めた雪……といっても夜が訪れてからどれくらい経ったのか、はっきりわからない。 あかねは壁掛け時計とにらめっこしながら記憶の糸を手繰り寄せる。ああ、最後に陽が沈んでからもう一週間になるんだ。時間の感覚がおぼろになって久しい。  今、この日本は「極夜」の中にある。すっかり冷え込んで、夏だというのに気温は氷点下に達したらしい。  けれども東の空がほんのすこし、白みかけている。もうすぐ夜明けが訪れる。そして太陽が姿を現わせば、いよいよ「灼熱の白夜」の訪れだ。これからの昼は、今までよりもずっと長くなる。そして、沈まぬ太陽がこの日本を焼き尽くすらしいのだ。  あかねがテレビに目をやると、画面に映るのは速報ニュースと天気予報。その中でも皆がいちばん気にしているのは、やっぱり地球の「自転情報」。  見慣れたお天気お姉さんの姿が映る。笑顔で淡々と伝えている。 「それでは天気予報です。あと二十四時間後に夜明けが訪れ『極夜』が終わります。地球の自転速度が現在と同様の十七分の一であれば、『白夜』の期間は十日間になります。最高気温は五十八度以上に達し――」  ついに最後の日が来てしまった。あかねは天井を仰いで大きく息を吐く。  すべての原因は地球の自転が遅くなったこと。温暖化で対流が変化したとか、プレートが歪んだとか、地球の寿命だとか、いくつか仮説はあったけれど、真相は誰にもわからない。専門家が分析しても、その手がかりは見つからないままだった。もちろん、その解決法も。
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