あいつはご遠慮願いたい

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 犯罪で家族や財産を失った人間の裁きは、犯罪者の所業よりはるかに恐ろしいものだった。そして裁きは番組で公開された。それが功を奏してこの人類滅亡の間際だというのに、日本では犯罪という犯罪がほとんど起こらなかった。すでに犯罪によって滅亡した国は多いというのに。 「今日の裁きは、娘を殺害された父親によるもので、方法はルーレット方式です。道具は一通りそろっています。さあ、どんな方法が当たるのか、ドキドキしますね!」  東堂が手を差し出すその方向には、加害者と思われる男性が(はりつけ)にされていた。恐怖に顔が歪み震えあがっている。それをにらみつけるひとりの男性が目前に立ち、その男に向かって目の前で叫ぶ。 「俺達家族は最後まで平和に暮らしたかった。それをお前はっ――」  あかねは目を背け、父と母に告げる。 「……ちょっと出かけてくるね。すぐに帰るから」 「おいっ! 危ないからやめろ。犯罪もゼロではないんだからな」  父はすぐさまあかねの外出を止めようとした。 「だけど今はだいぶ減ったでしょ、この番組のおかげで」  あかねは背を向けたまま力なく反論する。 「あなた、好きにさせてあげて。この時代、皆そうしているじゃないの」 母が落ち着いた口調であかねを擁護する。父はしばし考えてから答える。 「そうか、しかたない……。じゃあ、あまり遅くならないようにな。ところでどこへ行くんだ?」 「いつもの公園よ。行かせてくれてありがとね、パパ、ママ」
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