あいつはご遠慮願いたい

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 あかねはコートを重ね着し、だるまのようになって外に出る。窓からこぼれる光を跳ね返してきらきらと輝く雪は残酷なほど綺麗に感じられた。この雪はきっと見納めになるのだろうとあかねは憂いた。  膝まで飲み込む雪の感触をブーツの裏で噛みしめながら進んでゆく。向かった先は代々木公園。都会にありながら広々としたこの公園はあかねのお気に入りで、恋人ができたらいつか一緒に来るんだと心に決めていた場所でもある。 解放された入り口の門をくぐり抜け、白い息を空に撒き散らしながら公園の奥へと足を進めてゆく。目の前に広がるのは荒野のような雪景色。世界はまっさらな白に塗り潰されている。  たったひとりになりたかった。胸の中に溜まったやるせない思いを、誰もいないこの場所で思い切り叫びたかった。そのために雪の中、ここまで足を運んだのだ。  あかねは公園の広場の真ん中まで進むと雪の上に跪き、天を仰いだ。そして何のためらいもなく叫ぶ。 「うわああああああん! なんでっ! なんでなのよっ!! あたし、高校入学のためにあんなに勉強頑張ったのよ! パパが偉い人だからちゃんとした学校に入学しないといけないって思って頑張ったのよ! でも、なんでっ、入学して数か月で死ななきゃならないのよっ! こんなことだったら、死ぬほど恋しておけば良かった! あたし、カッコイイ彼氏を作って、いっしょにデートして、アツアツしたかったんだってば~! 地球のバカヤロー!!」  涙も凍るこの寒空の下、顔をぐちゃぐちゃにしてあかねは泣き叫んだ。誰も見ていないのをいいことに、遠慮なく鼻水を流して、叫び過ぎてゲホゲホとむせ返っても大声を上げ、まっさらな雪原に拳を叩きつけた。それから雪の中に躰をうずめ、ウミガメの産卵を彷彿とさせる泣きっぷりを夜空に見せつける。  どうせ泣くこともできなくなるんだ、ここで一生分泣いてやる!  すると突然、あかねは肌を切り裂くような激しい突風に見舞われた。西からの吹雪だ。それが何を意味するのか、あかねはよくわかっていた。  ああっ、地球の自転がまた遅くなっている――。
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