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地球が回転速度を落とすと大気が慣性の法則で流れ、西風が発生する。これは人類の絶望をより濃厚にさせる、いわゆる「死の宣告の風」だ。
けれど、あかねには今、それよりも切迫した命の危険が降りかかっていた。ほんの一瞬の出来事だった。気がつくとすでに視界に目印となるものが何も映っていなかった。
さっきまでこの公園を囲んでいたはずの高層ビルがかすかにも見えなくなっていたのだ。吹雪による、完全なホワイトアウト。
振り返ると歩いてきた足跡すらかき消されている。
う……うそっ! どっちから来たのか、まるでわからないっ……!
嫌な汗が全身から噴き出した。
まずい、ほんとうにまずい!
とにかくこの公園から脱出しようと思いあかねは無我夢中で歩き出す。しばらく足を進めると足下に小さな穴があることに気づく。
あ、これ……。あたしが潜った穴だ。だめだ、迷った……。
夜明けを目前にして寒波が押し寄せているようで、厚着をしているのに体温がどんどん奪われてゆく。しだいに体が震え出して止まらなくなる。
ああ、あたし、このまま死んでゆくんだ……。
それにしてもまさかあたしの最後は凍死だなんて。死ぬ時は素敵な彼氏の腕の中で燃えるように熱いキスをしながら死にたかったのに。
どうせそんなの、あたしの妄想に過ぎなかったんだ。神様ってひどいひどいひどすぎるぅぅぅ!
だんだん眠くなり、意識が遠のいていく気がする。
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