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そのとき、雪の中からブルルルルと不自然な音がした。自然界では聞く事のない人工の音波。プロペラの旋回音のようだ。頭上から聞こえてくる。
えっ、何、この音。まさか誰か助けに来てくれたの? でもこんなところに人がいるなんて誰も思うはずがないわ。
けれどもたしかにその音はあかねのほうに近づいてきていた。プシューと脱気の音がすると、その音は鳴りやんだ。続いて雪を踏む足音がする。
誰か、助けにきてくれたの?
睫毛にかかる吹雪を拭い、目をこらすと、あかねの目の前にたしかに人の姿があった。ゴーグルを装着していて顔は見えないけれど、背の高い男性のようだ。身をかがめて膝をつきあかねの顔をのぞき込む。
「大丈夫か、あかね」
誰? しかもなんで呼び捨てなの? まさか王子様的なミラクルが起きたっていうの? それとも半分あの世に足を突っ込んだから、生死の境で会えるっていう死神的なアレ?
あかねは呆然としてその人を見上げる。
男は指をゴーグルにかけ、そっと外す。あかねはその人の顔を見るやいなや、目をまんまるにして驚いた。
「あっ、あんたは……!」
その男の名は「高槻しおん」。あかねのクラスメートだった。
しかし彼は誰も近づかないし友達もいなさそうな陰の人間で、そのステータスは未知数。巷ではメカオタ変人、無駄にイケメン、スクール水着ウオッチャー、暇だと空を飛ぶなど、いろいろと気色悪い噂が絶えない生徒。出席率は最悪で、高校での出現頻度は激レアな男子。
「なっ、なんであんたが助けに来るのよ!」
警戒して身をこわばらせると、しおんは皆が持つイメージとは程遠い、真剣な眼差しであかねを見つめる。
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