導く声

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 慣れたわけではないが、それでも四六時中聞いていれば、其処から距離を取るぐらいのことは出来るようになる。  私はコンビニの中へ足を向けた。 もしかしたら、食べ物があるかもしれない。  車が突っ込んで砕けた窓を脇目に、私は中に入った。  ふと車の側で何かが動いた。  あわてて、バールを構える。  車の下に感染者が居た。  車体に挟まれ、身動きできないようだ。  それでもはみ出した上半身を、死にかけの蜘蛛のようにわきわきと動かし、私めがけて飛びかからんとしていた。  私は感染者の手に気を付けながら、バールの届く距離まで近寄る。 そして、ひと思いにバールを振り下ろした。  嫌な音と感触に私の心臓が早鐘を打つ。  いつもそうだ。  やらなければやられてしまう。  だからやる時はひと思いに。  そんなことを言っていた先生の言葉を思い出す。  だから先生が感染してしまったときに、私は先生の言葉を実践した。  気がつけば足下の感染者は動かなくなっていた。  殺してしまった罪悪感より、安全を確保できた安堵感が勝る私の心は、この世界と同様に壊れてしまっているのだろう。  バックヤードへ入り、スナックとジュースを確保できた。  量はそれなりだったが、持てる数は限られる。背中のバックにほどほど詰めた。     
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