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「よかった……」
私は安心した。そして涙が溢れてきた。
避難所から出て数日、感染者の群れを避けながら静まりかえった街を、時折獣のような声に怯えながら彷徨っていたのだ。
私はしばらくトランシーバーを握りしめて泣いていた。
「……落ち着いたかい?」
トランシーバーの向こうの声が優しく問いかけてくる。
「はい、はい……」
私は涙を拭って応える。
「状況が悪いのは解っている、今の君は安全な場所にいるのか?」
「はい、たぶん」
私は辺りを見回す、太陽はほぼ真上だから昼頃だろう。
辺りを徘徊する感染者もいない。
「よし、じゃあ周りを見て地名が書いてある物はないかな?」
「笹の目一丁目、です」
「……ネットが使えれば検索できたのだけど、知らない地名だな」
向こうの相手の声は少し落胆したようだった。
向こうの声は調子やトーンから男性のようだ。
「そうですか」
相手の言葉に私も少なからぬ落胆をした。
助けて貰える、いや、助け合える相手が現れたかも知れないのに、互いの位置が解らないのでは。
「……だが、トランシーバーが通じると言うことは、少なくても数キロ以内に俺たちはいると言うことだ」
私は彼の俺たちという言葉に感動した。
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