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私は涙を拭うとリュックからイヤホンを取り出す。スマホで音楽を聴くために持っていたのだ。
「それをトランシーバーに繋げてみて」
彼が言うので、私は従った。
イヤホンを耳に差し込むとそこから涼しげなギターの音色が聞こえた。
「これは?」
私はイヤホンのマイクへ向かって尋ねる。
「ギターの練習曲、名前は忘れた」
しばらく曲が続く。
私は聞いたことがなかったが、ゆったりと静かで穏やかなメロディーだった。
「音楽なんて久しぶりに聴いた」
曲が終わって、私は彼に伝えた。
「拙い演奏で申し訳ない」
「ううん、あなたって本当に何でも出来るんですね」
私は心から感心していた。
「さて、多分距離的にも明日中には合流できそうだ。今日はそろそろ休むことにしよう」
「はい、おやすみなさい」
「……おやすみ」
私はその場で横になる。
身体が鉛のように重く、脚は痛くて棒のようだった。
それでもあした、彼と出会えれば、きっと何かもが大丈夫になる。そんな気がして深い眠りへと落ちていった。
翌日、私は彼の元へ向けて移動を開始した。
外を移動している時は、なるべく通信しないように取り決めた。
感染者は音につられるからだ。
少し距離があったが、今日中に到着するだろう。
休憩を織り交ぜながら慎重に移動する。
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