第 2 話 の 1 はじまり

2/2
前へ
/379ページ
次へ
「えっ、オペ場ですか? しかも手洗い?」 朝一番、前原師長に呼び出され、今日は手術室に入って欲しいと言い渡された。 (手洗いとは、術者と同じように清潔な状態になって、医師に器械等を手渡す看護師のことだ) 「急で悪いんだけど、今ノロ(ノロウィルス)が流行っているでしょ?」 「はい。琴音の、あっ、橘さんの息子さんも罹ってしまったとは聞きました」 「そうなのよ。その他にも同じ保育所に通っているお子さんが何人か罹っちゃって、そのお母さんたちが出勤できなくなっちゃったのよ。それで、手洗いできる子が誰もいなくなってしまって。でも手術予定は先まで詰まっているし。ごめんね。七瀬さんならできるって橘さんに聞いたから。病棟の方はなんとかしておくから、今からすぐに手術室に上がって」 確かに、二年程オペ場に勤務していたし、それなりのことができる自信はある。 でも、手術前にはどんな手術なのかを考えて必要な器械を揃え、どういう手順で進めていくのかを予習する。 器械は他の看護師が揃えてくれているとしても、オペの仕方や使う道具の好みは医者によって違う。 上手くできる自信が全くない。 だが、目の前で前原師長に「お願い!」と手を合わせられると「わかりました」と言う他にはどうしようもなかった。
/379ページ

最初のコメントを投稿しよう!

288人が本棚に入れています
本棚に追加