似た者同士

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今日は麗の誕生日だった。麗は休日が自分の誕生日になっていることが嫌だった。(今日、誕生日だ。)休日の朝、着替て朝ごはんの準備を手伝いながらふと思い出した。母はいつものように父の目玉焼きを急がされている感満載で忙しそうに焼いている。途中で洗濯が出来上がるアラームが鳴った。父のチーズトースト、アイスコーヒー、サラダ、目玉焼きが揃った。テレビの方に向いた大きなソファには父の頭のてっぺんだけが見えている。「できましたよ。」そういう母の合図を待ってましたとうなりながら不機嫌に席につこうとする父を横目に、麗はすかさず自分の部屋に戻る。いつものことだ。1年前までは3人揃って食べていたこともあったが、仏頂面で食べ物の音だけをさせ、まずい時だけまずいという父、テレビはいつもついているので、母と麗が楽しそうに笑って見ながら食べていたり、母と学校のことで話が盛り上がると「しょうもないこと言うな。」と打ち消す父。挙句の果てにいただきます、ごちそうさまさえ言わない父に堪忍袋の緒が切れた母は、いつの間にか父の分だけを先に作るようになった。麗は自分の部屋に隠れるように戻り宿題をしながら、早く父が食べ終わってまた、仏頂面でテレビの特等席に座る事を願った。母からの着信だ。母からの着信があると父は食べ終わったので食べようという合図だということがいつのまにか暗黙の了解になっている。宿題をほったらかして、一目散にダイニングへ向かった。母は麗の誕生日のことなんて全く忘れているようだった。いや、忘れたふりをしているのだ。麗はその理由は分かるがあえて母をとがめない。誕生日を忘れられていても「お母さん、今日は麗の誕生日だよ。」と怒り混じりに息を荒らしながら責めることはしないのだった。休日はお昼頃に朝昼兼用の食事を摂る。麗はこのまま自分の誕生日を忘れていてほしいと思った。父には自分の誕生日が今日であり、母に忘れられていたということを知られたくなかったからである。そう、父は麗にとっていわゆる毒親だったからだ。(たしか去年はお昼過ぎくらいに思い出して、なんだかこっぱずかしかったな。)今さら思い出されても、逆に自分がみじめな感じになると悟った麗は、自分から誕生日だと宣言することもやめ、とにかくこの日がスルーされるのを待つのだった。まるで麗が転校してきたというような雰囲気は全くない食卓だった。
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