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「おはよう」
「……あ、おはよう」
正直驚いた。
今までも何度か玄関で一緒になったことはあったけれど、朝の挨拶を新田くんと交わしたのはこの日が初めてだった。
良かった、と安堵する。
今日はちゃんと丁寧に靴を揃えてから履いていた。
チャリっと音を鳴らして彼がカギをポケットにしまい込む。
「今日も自転車で来たの?雨降ってたよね?」
「ああ。でもバスで来んの面倒臭いから。少しくらいなら濡れても平気だし」
「少し、ではないけどね。良かったら、これ使って?」
カバンからタオル地のハンカチを取り出して彼に渡した。
髪にも肩にも雫がついたままだった。
……が、出してすぐに後悔。彼にとってはこんな大女からの小さな親切は有難迷惑だったか。
考え無しの行動を反省……する前に、そんな考えを吹き飛ばすくらいに爽やかな笑顔がすぐに返ってきた。
そりゃあ、モテるはずだわ。
「……サンキュ。なんだ、広崎。ガサツなトコもあるけど、結構女子だな」
いたずらっ子のようにクヒヒっと笑ったかと思うと、彼の右手が私に伸びてきた。
それは一瞬の出来事。
くしゃりと撫でられた余韻を僅かに残してその手はスッと去っていった。
「明日返すから」
こちらの動揺など知る由もなく、固まる私を置いて彼はあっさりとクラスに向かう階段へと歩み始めていた。
呼吸を整えるために深呼吸一つ。
あーあ。
やはり、ガサツ認定されていたか。ハズカシイ。
撫でられた所を撫でながら、小さな自嘲が漏れ出た。
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