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古文の授業は割と好きだ。
特に和歌が好き。
先生の話を頬杖をつきながら聞く。
限られた言葉の中に詰め込まれた恋の歌。
昔も今も変わらない恋の悩み。
先生が黒板にカツカツと音を響かせながら文字を書いていく。
その後ろ姿にあった視線が、滑らかに彼の背に滑り着く。
黒板の文字をノートに書き写しているのだろう。
背中を曲げ窮屈そうに座りながら、顔が上がったり下がったりを短い間隔で繰り返す。
その彼も、今誰かに恋をしているのだろうか。
頬杖をついてじっと見入る。
ふわっと乗った彼の指の感触と、その直後に私の体内を巡った熱量が瞬時に思い出される。
頭なでなで、って……。
それを好きでもない女にするなんて、天然ジゴロか。
無意識に撫でられた場所へと指が動く。
きっと、彼にとっては私の頭を撫でる事など些細な事過ぎてどうでも良い事なのだろう。
そんな事知ってる。
でも、私はそのせいであの日からずっとモヤモヤしている。
私一人が驚いてドキドキして、落ち着かなくてモヤモヤが募る。
本人はそのつもりもないのだろうが、勝手に私の中に入り込んで気持ちを掻き乱す。
それに軽く苛立っているのだ。
ボンヤリと窓の外へと目を移した。
飛行機雲が伸びて行くのを目で追う。
そして……また。
ふ、とした瞬間に思い出すのだ。
彼の指の感触を。
私はモヤモヤしながら、その感触が微かに残る部分を自分の右手でそっと拭う。
早く消えて無くなれと、そう思いながら。
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